フラグブレイカー、ウィーツー。
こういうベタなのが大好きなヨネヤマが送る、アガペその6。
実は恋愛小説とか書くのが好きだったりする。
中途半端なところで切れているのは焦らしプレイ(?)
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神鋼重工社制の共用スペースに俺の貸倉庫はある。契約ガンナー専用で、もれなく一人にひとつついてくるのだ。ランカーともなると外に別に借りたり、神鋼から追加倉庫を提供されるらしい。
開幕戦の影響でほとんどのガンナーがトレーサーをスタジアム方面に運び入れている為か、この一帯も閑古鳥が鳴いていた。
34番と書かれた四角いプレートをつけられているのが俺の倉庫だった。
……なんだこりゃ。入り口の扉の横に、木で出来た安っぽいリヤカーが置いてある。隣人が置きっぱなしにして帰ったのか。最近、ここに顔を出していないから物置代わりにされているのかもしれない。
邪魔なリヤカーを端に退けて、俺はドアノブを捻って倉庫に入った。
俺は暗闇に支配されている空間の中を手探りで明かりのスイッチを探す。壁を探るように撫でると、覚えのある感触を発見し、明かりをつけた。
「……なんだ、こりゃ」
今度は心の中でなく、声に出てしまった。
コアボディーが固定されているのは以前と同じだ。それはいい。
ただし、床一面にジャンクパーツが散らばっているのには覚えがなかった。それも尋常な数ではない。
ひとつの機械パーツを手に取ると、それはジャンクではあるものの、使えるジャンクであることがわかる。それもトレーサーに応用できるような。巧く選別して組み合わせれば、何かパーツが作れる。いちおう俺もガンナーとしてトレーサー整備講座を受けているから、修羅の資料を見ながらやれば、あるいは……。
トレーサー用部品を買う為にバイトをするよりも、短い時間で修羅を復活させることができるかもしれない。僅かな希望が沸いた時、疑問が沸いた――一体誰がこんなことを?
誰かの悪ふざけと思ったが、嫌がらせにしては力が入りすぎている。これだけ使えるジャンクを集めるのは相当な手間がかかるはずだ。
全く心当たりがないのにこのジャンクを使うのは気がひける。
恐らく、このジャンクは外のリヤカーを使って、持ち運んだものだ。
そう考えた時、脳裏にマーの言葉が蘇った。
――ニューロノイドらしい小さい女の子が、ジャンク品いっぱいのリヤカーを引きずってこの通りを歩いていったんよ。
しかも毎日。
そんな奇特な人物は二人といない。そのニューロノイドとやらが誰に頼まれてかは知らないが、このパーツを集めているに違いない。
そいつに問いただせば一発で解決だ――――。
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次の日。俺は張り込みに出撃することにした。
いつも通り、フィリアに出かけの挨拶をする。
「じゃあ、いってくる」
「うす」
意気込んでいる俺を挫くようなその体育会系な返事は何なんだ。みるるの右腕をバイバイといわんばかりに振っているのに見送られながら、俺は家を出た。
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マーの情報を頼りにすれば、市場通りを毎日歩いているのだから、ここを張っていればターゲットは向こうからやってきてくれるって寸法だ。
「そんな当たり前のこと、聞いてるほうが恥ずかしいから胸張っていわんといてほしいなぁ」
「うるへぇ」
市場通りで時間を潰せる場所は毎度恒例、マー・リンレイの屋台しかない。ヌードルを啜る俺に突っ込みを入れてくれる相方もついてくる。
マーが細い体で豪快に鍋をかき混ぜる度に、フォーの香りが動くようだ。どこにそんな力があるのだろう。
ガキの頃から見慣れた顔だが、よく見ればマーはそれなりに可愛いのではないか。肌は浅黒いし貧乳だが、湯気で額にへばりつく髪が艶かしかった性か、俺はそんなくだらないことを考えていた。
「マーは彼氏とかいないのか?」
「うーん、せやなぁ。恋人はいいひんけど、この前告白ならされたで」
おお、こんなオッサンしかこない屋台で仕事してるだけでも男がよりつくのか。マーの意外な言動に関心する俺だった。
「へえ、どんな風に」
「愛人にならないかって」
「ブッ!!」
思わず俺はフォーのスープを噴出した。
「汚いなぁ」
「おまっ、ちゃんとそれ断ったんだろうな!」
「当たり前やん。不倫なんて真っ平ごめんや」
「あー、冗談きつい。そういうのじゃなくて、気になってる人みたいなのは……」
「……いるといえば、いるってことになるんやろうか」
マーにしては歯切れの悪い物言いだった。もしかしたら自信がないのかもしれない。
いつもフォーを食わせてくれている恩人だ。俺も出来ることなら協力してやりたい。
「どこのどいつだ。俺も協力するぞ」
純粋な好意での提案に、マーはもじもじとしている。うーん、こいつもサッパリしていると思っていたのに、いつのまにこんな乙女のような態度を取れるようになったんだろう。見ていて面白い。
「えっとな、うんとな……目の前に」
マーが最後に何か言いかけた時、背後で機械がガチャガチャと揺れるような音が聞こえた。反射的に振り向くと、暖簾に隠れてリヤカーの車輪が見える。――こいつか!!
「マー、スマン!後で聞かせてくれ」
「え、ちょっと……もうっ。ありえへん」
逃がすものか。20FGを置いて、俺は急いで屋台を飛び出した。
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