あの日の熱気は何処へ消えたのか。
現在、このGVWを満たすのは絶望、偏見、猜疑といったあらゆる悪徳である。
他人の血で絞ったワインを何よりも好む、軍事企業の金満主義者による病巣を抱え、未来は、光は遠く彼方へ消え去ったかのようだ。
近頃では嘆かわしいことに、限りある食料資源を無駄に浪費し、愉悦で人を殺せる若者が増えているという。
宗教も私から見れば得体の知れぬカルト信奉者か悲観主義の無神論者のみになってしまった。
最近は少し裏路地を覗けば、限りない暴力で満たされている。人々の心が荒んでいる証拠だ。
(中略)
天然の鱒の味も、OG牛の味も、母が作ったシチューの味も、何もかもが私の夢だったのかもしれない。
ただ確かに覚えているのは、あの激しく人々を罰するように強く照らす太陽の熱気。柔らかく包み込むような日向の温もりだけだ。
人工灯の薄暗くじめじめとした明かりなどではない本物の光が恋しい……恋しい……。
――地上生まれ最後の人類。死後三日前の手記より。
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人類が地下に籠ってから1世紀がすでに経過しているGVW。
その前に地上で生まれた最後の人類が死んだ。
人類が栄華を誇っていた日々を知っていた彼は死ぬ間際、何を思ったのか。
もはやその想いを共有できるものは誰一人いない。
ただし、それは表向きの話である。
GVWを覆う権力争いの渦中で、誰かが(恐らく軍事企業の手の者が)思念のみとなったブレイン・マスターを謀殺したのだ。
彼は健全で無害だった故に最後まで生かされ、人々に悲しまれながら死を得る機会を与えられたのだった。
もはや邪魔するものはいない。地下人は地上人の夢のような狂気から逃れ、現実の脅威から目を背き、存分にトレーサーバトルというバランスゲームに興じることができるようになったのだ!
「やあ、新たなる狂気の世界へようこそ!!」