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RGタイムズ紙 / スポーツの秋?食欲の秋?読書の秋?……それともRGの秋?

そんな秋が来る日は……。 @2004 Alphapoint co., ltd. All Right Reserved.

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雷神家の絆 エピローグ

雷神家の絆 エピローグ

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<<雷神家の絆 第4部目次へ>>

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 何かを受け止めたかのように、ヒュームハンター達は立ち止まった。否、今まで受けていた信号を受信できなくなったからこそ、彼らは動かなくなったのだ。
 移動地点を常に送信しつづけていた信号を失った時、彼らは本能に従って巣へ帰ろうとした。躊躇いなく殺戮を続けていた数秒前の事など忘れたかのように、敵に背を向けた。
 2月17日未明、依然として優勢だったはずのヒュームハンター達は来た道を遡り始めた。


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 短い時間、降り続いていた雪が止もうとしていた。同時にヒュームハンターは潮が引くように撤退をはじめ、ようやく人類は安堵した。ウラ・イートハー中将などは配下の部隊に追撃禁止を厳命したが、誰もがこれ以上戦うだけの余力など残っていなかった。
 2月17日を過ぎた頃、予備地熱発電所を数基作動させて、GVWの環境は正常に回復しつつある。温度管理が環境庁の管轄に戻ると、GVWを覆っていた雪は解け始めて水になり、土へ還っていく。
 嵐のような日々だった。人々は振り返って、この戦いが始まってから1週間しか経過していないという事実に驚きを隠せなかった。疲労を肩に背負い、シェルターに非難していた住民が荒れ果てた故郷を見た時、何を思うのか。
 多くのガンナーがこの戦いで骸となった。その中に雷神と呼ばれたガンナーがいたことは、あまり知られていない。


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雷神家の絆 エピローグ


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 望遠カメラが拡大すると抱きしめあっている二人の姿が見える。銃声がする度に、大きい男――お父さんの身体が跳ねる。突き抜けるような衝撃と痛みがあるはずなのに、お父さんは庇うように見知らぬ女を抱きすくめていた。

「……嘘っ…だよね?」

 ――血塗れになっているお父さんと目を見開いて震えている紅いガンナースーツの女。
 二人の姿を見たとき、ボクの頭は真っ白になった。お父さんを撃ったやつらに対する無秩序な破壊衝動をぶつけてから、何があったのかは覚えていない。
 気付けば紅く染まった雪を背に、冷たくなったお父さんが横たわっていた。

「ねえ、早く起きてよお父さん。冗談だよって笑ってよ!!」

 どれだけ揺さぶっても、お父さんは笑ってくれなかった。いつのまにか、ボクの背後にいたクライスが止めるまで、ボクはずっとそうしていた。

「マイカ、雷神さんを……もうそっとしといてあげるんだ」

 クライスの言葉を聞いて、ボクは機能停止するように脱力し、動くことができなかった。気付きたくないと訴えているのに、すでに頭の片隅で理解してしまった事実。目の前を常に照らし続けてくれた灯火が突如消えてしまったような恐怖。半身がぽっかりと消えてなくなったのに、痛みすら感じない異常。
 GVWが彩を取り戻しているというのに、ボクの世界は暗闇に覆われたままだった。


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「閣下……ありがとうございました」
「ご苦労。オイラー大佐もよくぞ我が軍を支えてくれたな」
「いえ、閣下の苦労が身にしみてわかりましたよ。……そういえば、ウラ閣下にグレートプロテクター授与の話が出ているらしいですな。ホース軍曹以来、5人目ですよ」
「貰えるなら貰っておくさ。将来、本でも書けばグレートプロテクターの伝記とかいって金になりそうな肩書きだろう?」
「ははは、違いありません」

 5年前には正規軍の指揮官として、そして今回は神鋼重工の司令官としてウラ・イートハーの英雄としての地位は高みに達しようとしている。並ぶもの無き名声は、彼女を政治的にも重要な位置に立たせていた。
 それでもウラ・イートハーは、グレートプロテクター――GVWの守護者とは別の意味で大切なものをようやく手にしたのである。
 戦いが終わり、戦後処理の段階に差し掛かって初めてウラ・イートハーは一息をついた。
 グランドールがエレノア湖にて放置されているという報告を聞き及び、ウラは真っ先に北へ向かった。撃ち捨てられていたグランドールは従来の建造計画にはなかったコア部分らしき場所に空洞がある。何者かがすでに持ち去ったのだろう。
 ウラ・イートハーが求めていたものはコアなどではなく、コクピットルームにあった。
 グランドール計画で奪われた彼女の夫が20年以上の時を経て、ようやく――遺骸となって帰ってきたのだ。

「おかえりなさい……アナタ。ふふ、私はこんなに歳を重ねたというのに、貴方は綺麗なままなのね」

 グランドールが起動した日から、まるで時が止まったかのように風神は若かりし日の姿を保っていた。ウラ・イートハーがそっと口付けすると、遺体は砂塵のように砕けちった。この機体を巡って翻弄されてきた人々が呪縛から解き放たれたかのように、砂は風に乗って散っていく。
 ウラはそんな感情など忘れていたと思っていたのに、一筋の雫をそっと流して別れを告げた。


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 締め切られたカーテン。真っ暗闇の部屋にて、眠れずにベッドの上で脚を抱えてうずくまっているマイカがいた。その顔は僅か一晩で、何もかもを否定するようにやつれ青白くなっている。
 ドアがそっと開く。廊下から僅かな明かりが漏れ、闖入者は後ろ手で静かに扉を閉じると、また暗闇の世界が生まれた。マイカは部屋に入ってきた人物に一切の興味を示さない。この惨状ともいえる光景に闖入者であるヤヨイとエステルは息を呑んだ。
 ――可愛そうなマイカ姉さん。きっと、マスターを失った時の私もこうだったのですね。
 この事態を想定していたものの、ヤヨイは驚きを隠せなかった。食べ物はおろか、飲み物も数ミリ――おそらく若干蒸発しただけ――しか嵩が減っていない。生を否定するように、空虚になった心の隙間へ潜り込んでいるようだった。

「マイカ姉さん、そのままでいいから聞いて」

 ヤヨイがベッドに登り、傍らに寄り添うようにしても、マイカはなんの反応も示さなかった。ヤヨイが妹に目で合図をする。エステルは内ポケットから記憶片を取り出して場を取り繕うように言った。

「マイカお姉ちゃん、これ、お父さんの……」

 エステルは躊躇って、それでも続けた。

「お父さんの……遺言。私達にあてたものをエレンさんが預かってたって」

 その言葉は、事実となって部屋の空気を重苦しくした。マイカの返答はない。エステルは再生装置に記憶片を入れると、再生が始まった。
 ハンディカムカメラらしきもののスイッチを入れたのか、写った映像はカーキ色のコートに包まれた大きな肩だった。記録が始まったことを確認すると、後ろの席に男――父が座っていた。右繭から頬にかけての傷に、刈り込んだ短い金髪、蒼い目。全てがその男を雷神――父以外の何者でもないと教えてくれた。
 映像の中の父は椅子に腰掛けると、指を組んで申し訳なさそうに――たぶん、現実に父が目の前にいたのならばしたであろう所作で――口を開く。

「始まったかな。あ~、こほん」

 雷神は聞くものが体勢を整えるように、ひとつ咳払いをして間を取った。

「なんか定番の台詞みたいで悪いんだが、お前らがこれを見てるってことは、俺はたぶんこの世にいないのだろう。娘達よ、大変迷惑していたこともあったろうが、家族として暮らしていた日々は悪くなかったよ。ありがとうな。とりあえず一人ずつ伝えておきたいことがあるんだ」
「――エステルはしっかりものだから、俺はあまり心配してない。あえていうなら、ちょっと考え込みすぎるところはあるから、気を楽にして生きろよ。ウラ中将に迷ったときはなんでも相談するんだ。あの人なら頼りになるからな」
「――ヤヨイには一番謝らないといけないな。今はヤヨイが危惧してた事態に陥ってると思う。金の管理はたぶんヤヨイが長けていると思うから、ルードリッヒ銀行にクラリサ宛で入金しておいた。転生の術を知るというバルハッサ老人にはすでに料金を払ったから、頼んだぞ」
「――マイカ、まさか俺がいなくなったっていうだけで塞ぎこんでるんじゃないだろうな?」

 マイカは自分に投げかけられた父の言葉に反応して僅かに指を動かした。

「俺の娘がそんな理由で立ち止まることは許さないぞ。人の親っていうのは、先に逝くもんなんだ。いいな、立ち上がって、前を見て、脚を動かせ。立ち止まるのは老後になってからでいいんだ。それでも動けないっていうなら、周りを見てみろ。誰がいる?」

 そこには心配そうにしているヤヨイが、エステルが、愛しい妹達がいた。

「前へ、進め。振り返ってる時間なんてないはずだろ。マイカ、誰よりも力強く、歩み続けるんだ」
「――最後に一人立ちする娘達へ、名前を贈ろうと思う。戸籍名がないと大変だろうし、廃棄街には偽戸籍を作るのに長けたやつらがいるから、クライスに頼んで作ってもらえば多少は自由に生きやすいだろう」

 マイカに、ヤヨイに、エステルに、名づけては別れを告げていく。記録映像の終わりは近づいていた。

「一人でも、お前ら3人は姉妹なんだから、困ったときは互いを恃みにするんだ。……じゃあ。元気で暮らせよ」

 雷神がカメラのスイッチを消す音がし、ノイズの後に記録は途切れた。
 マイカはそこでようやく、ゆっくり――ゆっくりと顔をあげる。

「エステル、カーテン、開けて」
「……うん」

 エステルがカーテンを開くと、鮮烈なまでの光が部屋に差し込んだ。
 ――ああ、こんなにも眩しい……。

「お父さん、お父さん……」

 その時初めて、マイカは泣いた。忘れていた感情が日の光を浴びて蘇ったかのように、涙を流し続けていた。

「マイカ姉さん……」
「お姉ちゃん、泣かないでよ」

 ヤヨイとエステルはマイカを囲むようにして抱きしめあう。しばらくそうしていると、エステルが鼻をすすりはじめ、ヤヨイもそれに続いた。
 三姉妹はただ感情の奔流に身を任せ、しばらくの間悲しみに浸っていた。


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 少年は別室で記録映像を見ていた。それは娘達とは別に雷神がクライス・ベルンハーケンに宛てたものだった。
 ――悪いが、最後まで俺は狡い男だから、オマエを利用させてもらうよ。なに、娘を持つ父親としては当然の権利だ。坊主には諦めてもらうしかないって寸法だ。それに、クライスにとっても魅力的な提案だろう?
 悔しいことに、クライスは自身が愛してやまない精神の為にやらざるをえないことだった。
 ――クライス・ベルンハーケン、オマエに雷神というガンナーの資格を全て委ねる。その意思を継ぎ、マイカの擁護者となれ。

「言われなくても……やってみせるさ」

 ただ純粋にトレーサー研究をしていただけの少年が、背負うものを手にした時どう変わるのか。――きっとジャンさんなら、にやけ顔で見守っているんだろうな。
 新たな雷神は廃棄街を見据えて、やるべきことを模索しはじめた。マイカの為に偽戸籍の製造、革命軍への復帰、仕事は沢山ある。これから忙しくなってくるだろう。
 ジャン・タークが力を得たいと願ったように、クライス・ベルンハーケンも守るべきものを守れる力を切望して止まない。
 確かにそこには男の意志を受け継いだ男がいた。


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 雑踏の中に二人の男女がいる。悲惨な戦いの爪あとなど、もはや一片も残されていないかのような喧騒をILBM本社街は取り戻していた。人ごみに流されて二人は、肩を寄せ合って存在を確かめ合っていた。同じ位の身長の二人は、傍目から見れば初々しいカップルのようでもあった。
 ひとつの試練を乗り越えて、歳格好に似合わぬ愁いを秘めた少女は隣を見る。

「行こう、クライス」

 少年は応えるように力強く、少女の手を握り締めた。

「そうだね。――リリス」

 人類にとって、ニューロノイドにとって、灰暗いGVWから陽の差す地はまだ遠い。それでも虚無に支配された地下世界で去り行く者達が蒔いた種は実り、いくつもの蕾が咲き誇ろうとしていた。


雷神家の絆 <完>


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■あとがきへ

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