――萌え萌えなフィリアのSS。この言葉が俺の頭にこびりついて離れない。
そもそも創作など硬派記者ヨネヤマの手に負える世界ではない。
なんか経験した話を創作っぽく変えてしまえばいいのではないか。
「あ、そういえば……昔、フィリア使いの人にインタビューしたことあったな」
それは金がなかった時、バイトで神鋼の社内広報の記事を書いてくれと頼まれたときのことだった……。
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「マスター、私待ってますから。いつか迎えにきてくれるって。それまでのお別れですね……」
「いや、永遠の別れだ」
「えっ!?」
意外な言葉に驚いているエステルに、俺はこう言ってやった。
「残念ながら再生費用を工面できなかった。よってオマエは借金の抵当に持っていかれることになったんだな、うん」
黒スーツ姿の屈強な男どもは抵抗するエステルを連れて行く。引きずられていく俺のニューロノイドだった少女は線上に連なるように叫んでは消えていった。
「なによそれぇーーーーーーー!!…………」
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『アガペ』
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俺の名はウィリアム・F・グローバー。こう見えてもガンナーをやっている。
――え?そんなガンナーは聞いたことがないだって。
おかしいな。ガンナーの間ではウィーツーの通り名で有名なはずなんだが。
後ろの親父、何笑ってやがる。酔っ払いはこれだから性質が悪いってんだ。
「そんな格好いい通り名じゃねえだろうが。ウィーケストウィリー!」
――最弱のウィリー。と酔っ払いは言う。
店内にまた腹の立つ嘲笑が響いた。一発殴ってやろうかと思ったが止めておいた。俺は喧嘩も弱い。痛いのもあまり――いや、かなり好きではない。
それにクソオヤジの言うことは事実だった。ウィーケストウィリー。略してウィーツー。前期のガンナーバトルで1勝56敗で最下位だった俺につけられた渾名だ。
お陰様で金も無く、今日も酔っ払いの横にこっそり座って酒とツマミをくすねる毎日だった。
今の俺にはガンナーとして出来ることがない。ニューロノイドは持っていかれちまったし、トレーサーも手も足も出ず首も回らない状況――これが比喩でないのだからなおさら泣ける。
唯一残っているのはコアボディーだけだ。これだけは俺の個人資産では無く、神鋼からの借り物だから差し押さえられることはなかった。
「だが、そんな生活とも今日でオサラバってわけよ!」
「お、戦いには弱いが酒には強いウィーツーのイッキきたぞーーー」
囃し立てるオヤジのリズムに乗って、俺は喉越し爽やかなビールをピッチで一気した。へこむことばかりの昨今、久しぶりに良いニュースがあったんだ。飲まなくてどうする。
そう、再生費用も払えないガンナーには神鋼重工さんは手厚い保護をしてくれているのだ。
昨日、新しいニューロノイドを送ったという報告がメールでやってきた。これを朗報といわずして何と言おう。
これでニューロノイドにバイトでもさせて、とりあえずトレーサーのパーツを取り戻さないとな……と考えて、俺は意識を失った。
――まさか、それが厄介なアイツと1匹との出会いになるなんて。この時は思いもよらなかったぜ、全く……。
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