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RGタイムズ紙 / スポーツの秋?食欲の秋?読書の秋?……それともRGの秋?

そんな秋が来る日は……。 @2004 Alphapoint co., ltd. All Right Reserved.

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アガペ その7

本題の内容がでてくる回。
BGMはメロキュアの「Agape」。

※ちなみにマー・リンレイが喋る「いねっ」とは、OSAKA方言で「帰れ!」という意味。照れ隠しです。

 ◆◆◆◆◆


 重そうにリヤカーを引き摺っている奴は確かにそこにいた。
 機械の山で隠れているが、前部に回り込めばどんな奴なのか拝むことは出来たはずだ。
 ――まさか、まさか。
 リヤカーの後部には、見覚えのあるピンク色の人形がちょこんと座っている。みるるはまるで「よう、ウィリー」といわんばかりに手をあげていた。
 朝に「うす」と言って見送ってくれた少女の顔が頭に浮かぶ。
 ――まさか……。
 耐え切れなくなって前に回りこむと、そこには想像通りの……いや、想像外の…、否、どっちでもいい。機械油塗れのフィリアがリヤカーを引き摺っていた。

「なにやってるんだ……?」

 まるで無表情のままで、フィリアはこちらを見た。

「うす、マスター」

 どこで覚えたのかわからない言葉が気に入ったのか。朝の挨拶を繰り返すフィリア。

「うす。……じゃなくて、なにやってんだよ」
「トレーサー用のパーツ集め」
「あー、それはわかってる」

 じゃあ聞くなよ。と心の中で自分に冷静に突っ込みをいれる一方で、俺は混乱していた。てっきり家にいるとばかり思っていたのに、なぜこんなところで、いや、違うな。
 フィリアは大人しく俺の言葉を待っている。そんな彼女を見ていると、混乱している俺がバカらしくなってきた。何も慌てるような場面ではないじゃないか。

「なんでこんなことを……?」
「私にはこれくらいしかできないから」

 だからパーツを集めている。と、この少女は言った。
 何故。そんな必死に俺の為にがんばってくれるのだろう?
 このとき、俺は初めて気付いた。
 フィリアはまるで、無口で無感情のちょっと壊れかけたニューロノイドだと思っていた。けれどこの少女は結構、心の中で複雑に物事を考えているのではないかと。
 自分のしたことをフィリアの立場に置き換えて想像してみる。
 新しいニューロノイドが到着する予定だと知りながら、初日から家にいない。バイトに失敗してクビになる。怒りはしないものの、放置される。
 まるで興味が無いかのように接されて――実際は余裕がなかっただけなのだが――フィリアはどう思ったのだろう。俺だったら傷ついたはずだ。
 たぶん、メンテナンスポッドでは落とせない機械油の汚れを拭う為に、毎日シャワーを浴びていたのだろう。そのことをフィリアは隠していた。それが厳然たる俺とフィリアの距離なのか。
 役に立たないと思ったから、役に立とうと必死になって、小さな身体で重いパーツを引き摺って毎日歩いた。
 例え無視されたとしても、彼女は無言で俺の役に立とうとした。
 何故、ニューロノイドはそこまで人に尽くすのだろう。
 神が無償の愛を人に与えるように、フィリアもまた報われることを求めていない。
 だから、どうした?――なんて言い捨てることができるほど、俺は人ができちゃいない。
 エステルの時だってそうだったのだ。俺は当たり前のようにエステルのマスターに対する愛情を享受していたけれど、それにてんで気付いていなかった。
 馬鹿だ。確かに俺は大馬鹿ものだ。自分のことばかり考えてまるで彼女達のことに思い至らない。だから俺はウィーケスト・ウィリーのまんまなんだ。
 胸が熱くなる。眠っていた何かが蘇るかのように。

 ――俺には義務がある。彼女の想いに応えなくてはならないという、義務が。


   ◆◆◆◆◆


 ひとまずリヤカーを通りの隅において、フィリアを連れてマーの屋台に入りなおした。
 フィリアは熱々のフォーをはふはふ言いながら啜っている。俺はその隣で無料の相変わらず生ぬるい水を飲んで様子を見守っていた。
 
「なんていうかなぁ。まさかこの娘がウィリーのニューロノイドだったなんてなぁ~。こんな小さな娘に肉体労働させて酷使するなんて、アンタはほんまに鬼畜やね」

 マーの奴、なんか必要以上に怒っていないか?……とは言っても、こっちも反省しているところだから言い返すことなんて出来なかった。
 フィリアにこびりついた油を拭ってくれたのもマーだった。

「フィリアちゃん、おいしい?」

 こくこくと首を縦に振り、親指を立てるフィリア。聞かずとも食べる仕草でわかる。俺なんかには飽きたの領域を超えて一巡してるくらいだから、マーはわざわざ聞かないが、ここまで美味しそうに食べる奴を見て満足そうである。

「あー、こんなに夢中で食べて~、口元汚れてるでー。ん?……もっと食べたいって?ウィリー宛てでつけとくから幾らでも食べとき」
「ツケ?」
「当然や、なんか文句あるんか?」
「メッソウもございませんです、ハイ」

 そういえばこいつら、初めて会った割に妙に仲がいいな。

「そら、そうや。実は初めてちゃうし。3度目になるんかな?」
「な、心の声を読むなよ」
「心の声は心の中でしゃべっとき、丸聞こえやっちゅうねん」

 いつのまにか口に出していたらしい。なんということだ。

「ま、よう聞き。ふらふらリヤカー引き摺って大変そうやから、たまに水飲ませたり、フォー食わせたりしたわけ。いつかこの娘のマスター――ガンナーなんかな、ようわからんけど――現れたら一発説教かましたろうおもうててん。いやぁ~こんな身近なところにおったとは迂闊やったわ。アンタやと知ってたらフォーに毒入れたんやけどなぁ?」

 マーさん、怖いです。なんか両手の包丁は食材を切る時の握り方じゃないですよ。目が血走ってますし。

「ちょ、まてっ」
「遠慮もいらんし、助かるわ~。いざ、尋常に!」

 マーが飛び掛らんとする刹那だった。
 フィリアはみるるを前面に立てて、いつもより大きな声で。――それでも呟くようにしか周りには聞こえなかっただろうけれど。

「マスターは、わるくない」

 俺を庇うように、はっきりとそう言った。

「こいつ、結構悪いやつやで。悪意の無い悪が一番性質が悪いんや」
「これは、わたしがすきで、やったこと、だから」

 マーはこの言葉に毒気を抜かれたようだった。2刀流をぽいっと捨てて――危ないことこの上ない――対面の椅子に座る。

「……やらないのか?」
「ふん、今のアンタにはこっちのほうが応えるやろ」

 確かにマーの怒気より、フィリアの数少ない言葉のほうがダメージが大きかった。自戒の剣を何本胸に突き刺したことか。

「身近にいるもんを気にしなさ過ぎるのはウィリーの悪い癖やから、要注意、やで」
「……なんていうか、マーって俺にとって」

 真剣な眼差しで俺はマーを見つめた。心なしかマーの頬が赤く染まっているような気がする。

「お、俺にとって?」
「お袋さんみたいだよな」

 びしっと大事なところで説教してくれるし。そんなイイ奴はこいつくらいだ。
 いいこといったな、と俺は思っていたが、マーは頬だけでなく見る見るうちに顔全体が真っ赤になっていた。

「誰がアンタのママやねん!いねっ!!」
「誉め言葉なのになんで怒るっ!?」

 今日のマーは怒りっぽい。あの日だったのか?


   ◆◆◆◆◆


 マーの屋台から、我が家まで3分の帰り道で俺はフィリアと――みるるも含む――歩いていた。

「なぁ、フィリア」

 たいしたことはできないかもしれない。それでも、俺はこいつと一度一緒に一勝してみたかった。
 残り1ヵ月半。間に合うか?――否、間に合わせてみせる。

「一緒に修羅を作ろうか」

 彼女はいつもどおり、簡潔に返事をした。

「うす」

 ちょっとだけ、ちょっとだけだけど。フィリアの声色が嬉しそうだったのは俺の気のせいか?


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