忙しくても適当に遊べるのがRGのいいところだね。と思った1週間でした。
キーワードはねこまんま。
次回で終了。台風も来てるし、今日明日で書き上げてしまう予定。
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それから俺の生活は一変した。
まず早朝に目覚め、飯を食った後に屋台通りの連中が店を開くより早くリヤカーを引いて、ゴミ集積場へ向かう。そこでフィリアと二人で使えそうなパーツを物色する。
これが実際にやってみると骨の折れる仕事だった。何しろジャンクから使えるパーツを探すというのは、手に取った砂の塊から砂金の一粒をより分けるような作業だったのだ。根気と集中力が要求され、ストレスが溜まったものだ。それでも隣でフィリアが黙々と作業をやっているのを見ると、俺のヤル気も沸いてくるってもんよ。
運がいい時は少し手直しすれば丸ごと使えるような大物がひっかかることもある。1週間もやってみれば何となくの感覚でお宝を掘り当てる率があがっているのが実感できた。
それからパーツを満載してずっしりと重くなったリヤカーを引いて家のほうに戻る。
昼休憩でにぎわう屋台通りに立ち寄り、マーの店で用意してもらった昼飯をフィリアと並んでかきこむように食べていた。マーはフォー以外の料理もそれなりに上手だ。今日は羽根付き焼き餃子のセットだった。
初めのほうはのんびり食べていたフィリアも、そのうち俺を真似てかきこむように食べる技を身につけていた。10分以内に食事を追えて、相変わらず生ぬるい水をイッキ飲みして一息ついて休みは終わりだ。
それから汗を流しながら神鋼重工敷地内のトレーサー格納庫へリヤカーを引っ張っていく。
格納庫内にジャンクを持っていき、フィリアがよりわけたパーツを俺は分厚い仕様書片手に試行錯誤しながら組み立てていく作業をやっていた。
腕部パーツの指でさえ神鋼系列から3本、サイバーメック系列製品2本で構成したり、そんなトレーサーをILBMお抱え子会社のソフトウェアで動かすという荒業でまともに動作するなんて、夢にも思わなかったり――後からわかったことだが、奇跡に近い組み合わせだった。
人工灯が火を絶やす時、俺たちも整備工場の明かりを消して、家に帰って深い眠りにつく。
そんな生活を1ヶ月は繰り返した。
俺にしてはよく飽きなかったものだ。あっというまの1ヶ月だった。
フィリアは相変わらず無口だった。
それでも「だーーーー、うごかねえええーーー!!」だの、「あーーー、みつからねええーーー!!」だの呻く俺にフィリアはすかさず「ドンマイ」だの言ってくれる。
そのタイミングはツッコミ文化が盛んな地域出身のマー・リンレイ先生お墨付きだ。
「フィリア、うちと結婚しよか?」
「……結婚式は6月がいい」
何故かみるるの頬が赤く染まっているような。まさか、人形なのに?
「おいおい、ボケとボケじゃ漫才はなりたたないんだぜ」
――こんな日々がいつまでも続けばいいのに。
なんてガキのような感慨に浸りながら、月日は絶えず変化しながら流れていった。
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「立ったのか?」
「……立った」
狭いドッグ内を、左腕と頭部のない修羅が立ち上がろうとしていた。
初めて子供が独りで立ったときの親の気持ちってこんなものなのだろうか?胸の中で溢れんばかりの感動と喜びが広がり、爆発した。
「よっしゃあぁあああああああ!!なんとか動いた!!」
全身で喜びを表す俺に対して、フィリアは小さく片手でガッツポーズをしていた。彼女なりに達成感を感じているようだ。
フィリアと修羅の組み立て作業を始めてから1ヶ月が立っていた。
ここまでくれば工程の半分以上は終えている。方々の専門家の手を借りていたものの、想像以上に早いペースで組み立てられている。
これならばフィリアが寿命を迎えるまでには一戦できそうだ。
――勝ちたい。修羅とフィリアと俺で、1勝したい。
日増しに想いは強く、大きくなっていく。残り2週間弱。時間はギリギリだった。
俺はここでフィリアを呼んだ。フィリアは何事かと、じっとこちらを見つめていた。
「残りは俺が完成させるから、フィリアはトレーニングしていてくれ」
彼女は長い睫を2,3瞬かせた後、何も言わずにこくりと頷いた。
そう、フィリアは俺の元に来てから一度もガンナー用のトレーニングをやっていない。初期状態のままでは例え修羅が完成して試合にこぎつけることが出来たとしても、勝利はおぼつかないだろう。
ガンシューティング、走りこみ、トレーサー操縦術等、最低限やっておかなくてはならないことが沢山あった。
正直なところ、俺自身にも足りないところは山ほどあったが、人とニューロノイドでは成長速度が違う。それにフィリアは手伝いが出来ても、組み立ては任せられなかった。
こうして、修羅が立ち上がった日から、俺とフィリアは別行動を取ることになったのだ。
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それでも出会ってから10ばかりの日々と違い、俺はフィリアのことを忘れるようなことはなかった。
夕飯時くらいにしか一緒に話す時間はなかったけれど、俺は作業がどこどこまで進んだとか、全然動かなかったとか、そんなことを一方的に喋っては、フィリアは黙って頷いていた。
2週間の間にフィリアのトレーサー操縦はいちおう形になったし、俺のほうも脚が丸くて太い修羅を組み上げて見せた。
――こうして、ついに試合の日がやってきたのだった。
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啜るような音が狭い室内に轟く。俺はミソスープの中にライスをつっこんで、一気に掻きこむ。試合の日はいつもコレで朝飯を占めるのが俺の習慣だった。
「よし、いくか」
「うす」
出陣の決意を整えて、俺は早めに家を出た。
修羅は神鋼側でスタジアムまで運んでくれている。俺たちは手ぶらで試合会場までむかえばいいだけだ。
GVWを議事堂街を中心にして張り巡らされている地下鉄に乗って40分ほどするとスタジアムへ到着する。
負ければフィリアとはこれで最初で最後の戦いになるだろう。なんとしても勝たなくては。
スタジアム前駅にはあまり多くの人はいなかった。昼後のカードは下位リーグの試合しかないからだ。夜にもなればまた違うのだが、俺たちの戦場を見届ける客はガンナーバトル好きのマニアがほとんどだ。
駅からスタジアムまで10分ほどの道のりは陽光が差し込むのどかな光景が広がっていた。
対して俺は緊張で腹は痛いわ、胸はずきずきするわできついったらありゃしない。試合前はいつもこうだ。トレーサーバトルになると逆に冷静になりすぎて困るとか言ってたガンナーがいたが、どう考えてもそいつは変人だ。
何気なくフィリアのほうを見ると、偶然紅色の瞳と目があってしまった。――こいつに格好悪いところ見せたくないなぁとは思うのだけど、吐き気もするし落ち着かない。
意気地のない自分に情けなさを感じて一歩を踏み出すと、食べ物の匂いが鼻腔を膨らませる。
――なんだこれ?
匂いの元を辿ると、どこかで見たことのあるような屋台が停まっていた。
「マーがいる」
フィリアはみるるを小脇に抱えて屋台へむかって走り出した。
確かにそれはマー・リンレイの屋台だが、なんでこんなところに?
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