世間は黒の革命軍とやらのテロでILBMが本気になっただのなんだの騒いでいた。ILBM本社周辺は常に人口密度が高い。通り過ぎる人の群れを見つめながら俺――ヨネヤマ・マサオは獲物を捜し求めていた。といってもそんな物騒な話ではない。
硬派な記事で食っている俺でもたまには世間一般の声を聞きに、街頭インタビューでも試みることにしたのだ。
そうしてマンウォッチングしていると、丁度手頃な獲物が通りかかってきた。190は優に超える背丈の男に後ろから声をかけてみる。
「あのー、すみません。お時間よろしいでしょうか」
振り向いた男の姿を見て、俺は失敗したかなと思った。眉間から右の頬にかけて縦に走る傷はどうみてもカタギではない。訝しげに俺を見る顔は鋭く、人を殺したこともありそうな雰囲気を醸し出していた。ただし、その凶悪な雰囲気も彼が持っている紙袋からはみ出た人参が和らげていた。
こうなれば当たって砕けろ、だ。
「なんだ?」
「RGタイムズのヨネヤマといいます。ちょっと父の日ということで――あ、お父さんですよね?――インタビューをしているのですが……そちらの食材で何かご馳走でも作ってもらうのですか」
俺はカタギではなさそうな男に有無を言わさぬよう畳み掛けた。男はよくぞ聞いてくれたといわんばかりの笑みを浮かべると。
「前に娘の――一番下の娘の誕生日があったんだが」
「はぁ」
「その時持ち合わせがなくてな、俺はこういったんだ。誕生日とは生まれたことを祝ってもらうのではなく、生まれてきたことに感謝をする日なのだ。だから誕生日の奴が世話になった皆を持てなすべきである、と」
「へ、へぇ」
「すると、うちの頭のいい末娘はそのことを律儀に覚えていたんだな。父の日も父に感謝をするのではなく、父が子供に感謝をするべきだと今日言われたんだ。よって俺は何故か手料理を娘達に振舞うことになったわけだ――おっといけねえ、シチューほどじゃないが漢のカレーは炒めるのと煮込むのに時間がかかるからな。このへんで失礼させてもらおうか」
――俺は足早に去っていく男の後姿を見届けて、世の中いろんな家があるんだなぁと呆然としていた。
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ということで、6/17は父の日でした!あまりRG関係ない話。
ヨネヤマはカレーつくってワイン添えて終えました。玉葱8個向いて切り刻んで強制号泣の目に会いました。あー、酒飲んだから眠いということで今日はこのへんで。
(人狼告知は明日にしよう、うん)