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RGタイムズ紙 / スポーツの秋?食欲の秋?読書の秋?……それともRGの秋?

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RGタイムズとヨネヤマの危機 その8 常識という名の偏見 ③

RGタイムズとヨネヤマの危機
その8
常識という名の偏見 ③




fimg_21195662150.png302号室の適当な間取り
絵日記をまた使ってみたの巻

***********************


 ニコライ・カラマーゾフという人物を一言で表せば孤独だった。憂愁にとざされた顔は何人たりとも寄せ付けぬような雰囲気を纏っている。あえて彫刻のタイトルにするならば「苦悩」といったような中年男性特有の疲れを顔に滲ませていた。
 彼の赤い髪の毛先は軽く癖があり、櫛を通していなければあちらこちらへと跳ね回っていただろう。彼は30代後半中肉中背でガンナー出身であるためか、引き締まった体型をしていた。擦り切れた革靴に色あせているチャコールグレイのコートが身体の一部のように似合っている。
 ニコライ氏はベッド脇の椅子に座り手を組んで、殺人現場の起きた部屋の一点――死体のあった場所を見つめて、薄い唇からぶつぶつと何事かを呟いていた。
 ボク達がこの忌まわしき302号室に入っても、ニコライ氏は一度も注意をこちらには向けなかった。主人の注意を掻き乱したくないのか、しばらくヨセフ翁が部屋に入ったところで立ち止まっていたのでボクとリリスは待たなくてはならなかった。
「……なるほど、なるほど、それならば実に納得のいく話だ」
 彼が薄い唇から独り納得したかと思うと、まるでこの世の全ての悩みが解決したかのような晴れやかな顔になった。大袈裟に天を仰ぎ、立ち上がると、ようやく部屋にいつのまにかいた――彼にとっての異物の存在に気付いたらしい。
「ヨセフ、ずいぶんと遅かったじゃないか」
 眉をしかめ、照れくさそうにあげた手をそっと降ろすと、ニコライ氏は非難がましいことを口にした。
「申し訳ございません。ベルンハーケン様との話が盛り上がってしまいまして」
「ええ、まったく」
 今度はボクが眉をしかめたくなったが堪えた。皮肉っぽい相槌になったのは仕方が無いことだろう。ヨセフ翁は全く堪えていないどころか、平然と小憎らしい笑みさえ浮かべる余裕があった。
 ようやく部屋の奥に入ることのできたボクとリリスは、ニコライ氏の顔を間近で観察する機会を得た。
 ――まただ。目の前の男が発する声も通信機のものとは違う。もはやボクには本物が誰なのか、さっぱりとわからなくなっていた。まさかとは思うがこれが本人でなかったら椅子を蹴って帰っていたかもしれない。それくらいの怒りは正統なものとして認められるはずだ。
 疑わしげにニコライ氏を見ていると、鳶色の瞳と眼が合った。ニコライ氏はボクを一瞥すると、「ふむ」と呟いた。
「はじめまして、クライス・ベルンハーケンさん。ニコライ・カラマーゾフです」
 名を告げると、ニコライ氏は握手を求めた。やわやわと握ったボクに対し、彼は力強く握って手を振り回す。少々痛いが、片眉をひそめて儀礼的な笑みを返す。
「……表に出てこないクライス研の技術者がここまで若いとは驚いたよ。全く、世の中というのは不条理であるのを実感できるというものだ……」
「こちらこそはじめまして……。しかし、今のボクは革命軍とは関係のない存在です」
「そうでしたね。ただし、私の同業者が雇われて、貴方を血なまこになって探しているという噂も聞きました」
「ボクは貴方より優秀な探偵を知りませんよ。だから暫くは大丈夫でしょう」
「なるほど、なるほど。その気概は良いな」
 ニコライ氏は満足そうに2度ほど首を縦に振った。どうにも、ボクの立場を知っている人と会うと気が張ってしょうがない。頭脳労働においてもリリスに劣っていたことだし、少しばかり怠けすぎていたかもしれないな。
「それに、三日しかないというのにいささか時間を無駄に使いすぎている気がしてならないので、早いところ説明を伺いたいものです。……真犯人は誰なのかということのね」
「これは……ヨセフは実に貴方に失礼に当たる行為をしたようだな。私から謝らせてもらいたい。何、あの爺さんは仕事は出来るが、人をからかうのが生き甲斐という悪趣味を持っていてね。けして悪気があったわけじゃないのですよ……おっと、失礼。犯人の話でしたね。ヨセフ、この部屋に4人はちと狭いだろう。上で客人にお茶でも用意して待っていなさい」
 全く楽しそうに微笑んでヨセフ翁はボク達に一礼すると、体の向きを変えてボクを横切って部屋の外から出て行った。リリスなんかはバイバイと暢気に手を振っている。
 音もなくドアが閉まるのを見て、ニコライ氏は切り出した。
「実のところ、時間があまりないのですよ。すばやく動き出さなければ犯人に繋がる重大な証拠が隠蔽される可能性があるのでね。ただ事件自体は単純な話なので、手早く説明しましょう」
 そこには自分の知性に絶対的な自信を持つもの特有の傲慢さが垣間見えたが、そんなものは慣れっこだ。社会が絶望の度合いを深め、統治能力が低下すると無能を嫌う実力主義が蔓延するからか、この手の連中は沸いてすてるほどいる。性質なのか、病気なのかはわからないけれど、特にガンナーには多いといっていい。ボクの死別したガンナーの兄もそういった特質をもっていた。
 彼が立ち位置を死体のあったという机の横、窓際から2歩ほど体をずらすと、死体の状態を表す白線が見えた。
「へ~、本物初めてみたよ」
 先ほど、あれだけ鋭い観察眼を発揮したリリスだったが、今は実にノン気なものだった。苛立ちささくれだっていた心が実に寛容な気持ちになるのだから、彼女は張り詰めた糸を緩める天才なのかもしれない。
「おっとこれはまた失礼なことを……女性がいるというのに立たせたままにしてしまって……もう少し、もう少しばかり私に時間をください……では、始めましょう」
 ボクとリリスが注視すると、ニコライ氏は背中で手を組み、室内をうろつき始めた。立っているボク達を尻目にベッドに腰掛けて、人差し指を立てて切り出す。
「まず第一に。我々が証明しなければいけないのはヨネヤマ・マサオ氏が犯人でないのなら誰が真犯人なのか、ということです。これはヨネヤマ氏が犯人であるという可能性は除外して――無論、犯人である可能性を捨て去ったわけではないのですが、それが私に与えられた仕事だからね――話を進めましょう」
 リリスがニコライ氏の物言いに対して怪訝そうにしているのを横目で見て、ボクは心中で冷や汗をかいたが話は続いていた。
「犯行時刻の午後1時15分前後、このホテルのフロントには幸いなことに――同時に不幸なことにヨネヤマ氏以外の客が通っていないことは先ほどフロント係に自分で尋ね、確認しました。もちろん裏口からこっそりと入ってきた人物、ホテルの宿泊客、従業員等は除外しています。何故なら、この事件でヨネヤマ氏が容疑者とされた理由は、被害者ショウゴ・ヤサカが所持していたニューロノイドの証言によっているからです」
 ニコライ氏はコートの内ポケットから一枚の紙片を取り出した。そしてその紙片をリリスのほうに差し出す。リリスはおずおずとメモを手にとって眺めていた。
「それは被害者が所有していたニューロノイドの証言をメモしたものです。これを参考に事件を再現してみましょう……お嬢さんは証言者、私はヨネヤマ氏、ベルンハーケンさんは被害者の役ということでお願いします」


****************************


「……わかりました。とりあえずどうしたらいいのですか?」
 いきなり割り振られた役に戸惑いながらボクは尋ねた。リリスは不謹慎と知りながら、面白そうと高い声で言い、興奮して頬が赤くなっている。
 ニコライ氏がバスルームのドアを指差して「お嬢さんはそのバスルームの中に入ってもらって……そう、扉を閉めてください………はい、OKです。ベルンハーケンさんは窓を背にして立っていてください」と指図する。手早く配置につくと、ニコライ氏は満足そうに頷いた。
「よろしい、実によろしい」
 犯人役――ヨネヤマ・マサオを演じているニコライ氏はもう一枚のメモを取り出して、部屋の外に出て行ったかと思うと、すぐに扉を開いて部屋の中に戻ってきた。演技の始まりだ。
「まず、パメラというニューロノイドがバスルームに隠れて数分後――覚えておいてもらいたいが彼女の弁で、憎き殺人犯がこの部屋を来訪します。そこでヤサカは気軽にヨネヤマ氏を部屋に招きいれたとあります」
 手もとのメモに目を落としながら、ニコライ氏は歩いてくる。ボクの目の前にたったかと思うと、いきなり顔をあげて、両手を振り上げた。さながら劇の幕開けを告げる役者のようだった。
「何らかの話をヤサカとヨネヤマ氏は……おそらく、この椅子に座ってしていたのでしょう。そしてヤサカが取り扱っていた覚せい剤のことに話題は及び……交渉は決裂!」
 フリでニコライ氏はボクのロングコートの黒い襟を掴み、軽く締め上げる。首元の締め付けを感じながら、勢いでボクは立ち上がり、吐息を感じることのできるほど近くにニコライ氏がいた。
「激しい口論となり、その怒声に驚き慄きながら、パメラは気になってそのドアの下の隙間からこちらを覗き込んだ!はい、お嬢さん、そんな感じでお願いします」
 バスルームの中でごそごそとリリスが動く気配がして、僅かな隙間から彼女の黒い眼がなんとか見えるような気がした。よほど意識しなければわからないほどだ。
「こんな感じでいいの?」
「はい、そこから見える状態を出来るだけ正確に伝えてください」
「んっ、りょうかいっ」
「……では続きを。パメラが覗き込むと、腹部を何度も、何度も刺されているマスターの姿が見えた」
 そう言って見えないナイフを両手で握り締めるようにして、ニコライ氏は被害者であるボクの腹部を何度も刺すフリをした。茶番のようだがニコライ氏は至って真剣だ。
「さて、ここでパメラ役のお嬢さん……どういう風に見えますか?」
「これって、見えたとおりにいっていいんだよね?」
 リリスは困惑したように、ニコライ氏に確認していた。何かそんなにおかしいことでもあったのかな。それもこの遊戯みたいな再現の中で……?
「もちろん。そうでないと困ります」
 神妙な声色でニコライ氏の返答を聞き、ドアの向こうからくぐもったリリスの声がした。
「……隙間が狭すぎて、立っている二人の足元しか見えないよ。それにニコライさんが背になっていてクライスが隠れてるから、何をしてるのかさっぱりわからないし……」
「なるほど、なるほど!!」
 実に彼は満足そうに声を張り上げ、ボクの襟を放した。
「それは実におかしな話ですね。ヨネヤマ・マサオを容疑者とする唯一の根拠、ヤサカのニューロノイドの証言。それがちょっとした検証でまるでおかしいことがわかるわけですよ。お嬢さんの言うとおり、そこから腹部を刺した、何度も何度も、なんてものは見えるわけがないのです。なおかつ、彼女は死体を確認しないで発見されるまで、バスタブの中で震えていたという。……つまり死体を見た上で証言を補完し、勘違いしたという可能性はない……疑問はまだありますよ。彼女は証言の中で始めはヨネヤマ氏のことを憎き殺人犯と激しい憎悪を混めて呼んでいたのに、他の部分ではヨネヤマさんと敬称で呼んだり、発言に一貫性が欠けているとは思えませんか?」
 矢継ぎ早にニコライ氏は語る。ボクはその急激な転換に驚きながら、彼の論旨から結論を読み取っていた。ボクの気付かぬ間に思考が漏れるように口から出ていた。
「そんな、まさか……ニューロノイドがマスターを殺すだなんて不可能だ。それに他の部分だって言いがかりに過ぎない。そうでしょう?」
 そう、ニューロノイドはマスターに反発して、どれだけ恨みを抱いていようと、主人を殺すことなんて出来ない。こんなものは幼児でも知っている常識だ。パメラというニューロノイドがヤサカを殺したというより、パニックを起こしていて発言が思い込みが混じり支離滅裂となったといったほうが信じることができよう。
 そんな常識外れの推理に戸惑っていると、バスルームのドアが開いた。その中からリリスが――ニューロノイドとして生を受けた少女が現れる。彼女がそれを証明してくれるはずだ。マスターを殺すということの、論理ではない生理的嫌悪感を実感として!
 だが彼女はボクの淡い期待を見事に裏切った。
「できる、できるよ」
「リリス、君まで何を言うんだ!」
 彼女はボクのほうを見てはいなかった。ニコライ氏の興味深そうなまなざしを掴み、苦しそうにあえぎながら言った。
「その人がマスターじゃなかったら……本当のマスターが強制してしまえば人を殺すことはできるよ」
 彼女は同胞ともいうべきニューロノイドが犯した罪に苦しみを覚えていた。リリスの強い感受性が人を殺すように命令されたニューロノイドの苦悩を物語っている。植えつけられたものとはいえども、それはニューロノイド達にとって壮絶な生理的苦痛をもたらすはずだ。
「つまり……ヤサカ・ショウゴはパメラのマスターではなかったということなのか?」
 彼女の言ったことを纏めると、そういうことになる。それはボクには未だ信じることの出来ない可能性だった。
 リリスの言を継いで、ニコライ氏はボクの疑問に答えてくれた。彼も何故か苦しそうに見えたのは何故だろう。
「まだ推定の段階は抜けていませんが、私はそう考えています……そして、この事件の実行犯はパメラ自身か、姿を見せていない真のマスターのどちらかでしょうね。ただし真のマスターが行ったのならばパメラは偽証しているということになります。哀れな警察は偏見――ニューロノイドはマスターに忠実であり、人を殺せないという常識に捕らわれて、そこから思考停止してしまったから簡単にヨネヤマ氏を犯人としてしまった。ここから今回の悲劇は生まれたのではないでしょうか……という筋書きを考えていますが、どうでしょう?」
 そんなふうに自分の言ったことですら信じていないようにニコライ氏は口元を歪めた。そのことからボクは彼がまだ確証を得たわけではないことを知った。それでも何らかの取っ掛かりを得たのは確かだ。自分に考えが無い以上、にわかに信じることができなくてもその線で切り込んでいくしか他には無い。いわばボクは傲慢にもニコライ・カラマーゾフの実力を試してやろうと思い上がっていたのだ。
「ボクに異論はありません」
 粛々とそういうまで、その意図に自分自身で気付かなかったのは苦笑するほかあるまい。たぶんこんな考えはニコライ氏には読まれていたことだろう。だが大人である彼は気付かないフリをして黙って挑戦を受けたのである。
「ありがとうございます。現在、ニューロノイドに詳しい情報屋から私の推理が可能なのか問い合わせているところですが……その情報屋が言うには警察の管轄下にあるパメラの記憶デバイスを確保しろと言うのですよ。これが先ほどから私が少々急いでいる理由なのです」
「確かに警察を納得させてパメラの記憶デバイスを解析すれば、今の推理が正しいかどうか検証できますね。わかりました、貴方のやりやすいようにしてください」
 商談のようなボクとニコライさんの話を今までは必要のないとき以外、黙って聞いていたリリスが、ここで初めてぽつりと口を挟んだ。
「ねえ、ニコライさんの推理が正しいなら……パメラはマスターを庇って、自分のマスターを偽っていることになるんだよね」
 リリスの問いにニコライ氏は赤い癖っ毛をかき乱して、興味深そうにリリスを眺めて答える。
「ええ、それが何か?」
 リリスが憎むべき悪を当然のようにして憎む権利があると信じて、怒りを静かに煮えたぎらせているのに気付く。それはボクも、ニコライ氏も同様にして人には理解できない感覚だった。
「……ニューロノイドにそんなことを強いるなんて、許せない」
 ボクは彼女の中の導火線が点火し、いっぺんに燃え盛るようにぎらついた瞳を見た。それはリリスの脳裏に新たに浮かび上がった真犯人が明確に敵であると刻み込まれた刹那だった……。


*************************


……つづく。

次回 
RGタイムズとヨネヤマの危機
その8

「情報屋とレティシア」

*************************

地文と会話文の行間あけたほうが読みやすいかな?

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Comment

むに

  • あおい
  • 2007-11-23 08:12
  • edit
このままでも自分は読みにくくないですよっと。

意外な展開。先が楽しみでしょうがない!
シアにこんなことさせたマスターには
とんでもない不幸が訪れればいいと思うよ。

無題

  • ヨネヤマ@管理人
  • 2007-11-23 14:09
  • edit
ではこのままでイキマスね~(´∇`)

ようやく個人的にはさっと書き上げたかった部分まで終わって、ほっと一息。
果たして真犯人の正体は?と煽っておきます。

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