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RGタイムズ紙 / スポーツの秋?食欲の秋?読書の秋?……それともRGの秋?

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RGタイムズとヨネヤマの危機 その13 逃走③

RGタイムズとヨネヤマの危機

その13

逃走 ③


後2話。
久々の更新です。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 パメラがいたはずの空間には、あらゆる事件の証拠品のみが静かに佇んでいた。
「どういうことだ、これは?」
 状況を認識しきれていないボブスンは疑問符を浮かべて背後を振り返った。その目線の先には探偵、ニコライ・カラマーゾフがいる。ボブスンはこの探偵の厳しい顔つきを初めて見て、非難されているような気分に陥った。だがニコライはボブスンの失態を責めていたわけではない。あえてその対象を求めるのであれば、すべてニコライ自身に回帰される話だった。ただ自己反省に時間を費やしている場合ではなかった。三日探偵は寄っている眉間を二本の指で揉みこむようにして解す。
「先を越されてしまったようですね。さて、どうしたものか……」
 仰ぎ見た天井には、切れかかった蛍光灯がバチリとはじけて明滅している。
(チェックメイトか? いや、そうではない。赤が出るような仕事は好みじゃないのだが、まだ手はある)
 どうするべきか。――ここから先はプライドとの勝負だな。とニコライは胸裏で自問自答する。
 諦めて放り投げるのは性分ではなかった。ゴールを目の前にして、コース外から出てきた見知らぬ存在に獲物を奪われたというのも悔しい。
 その感情がニコライ・カラマーゾフにドロップアウトすることを許さない。蒼い瞳の底で火種が弾けた。彼の持ち前の赤毛と相まって、ボブスンはニコライにまるで全身から炎をゆらめかせている印象を覚え、知らず知らず一歩退く。それだけ現在のニコライは見えない威圧感を纏っていた。
「ニコライ、事情を説明してもらえないか?あのニューロノイドに一体どんな秘密が隠されているっていうんだ」
「おや、ボブスン刑事、今日はえらい仕事熱心ではないですか」
「皮肉をいうなよ。こっちだっていつもラクをしたいと思っているわけじゃない。……ことは殺人事件だからな」
 もちろん、ニコライはボブスンの言い分をそのままにして捉えたわけではない。表面上は協力していただけるならこれ幸いと微笑んだだけだ。凶悪ともいえる決意から発せられる威圧感に気付かず怯えていたボブスンは、その笑みにほっと胸を撫で下ろした。
 そう、ニコライは知っている。現在のボブスンがヨネヤマ・マサオを有罪の衣を着せたまま法廷に送り込むだけの自信がないだけなのだ。メディアでは取り上げられる無罪の記事は、それ自体が珍しいから取り上げられるのであり、ほぼ100に近い数字で起訴された事件の容疑者は有罪判決(執行猶予付き含む)を受ける。自分が担当した事件で無罪を出すということは真相がどうであれ、警察という組織では許されないことだった。ボブスンには正義に殉ずる気などさらさらない。証拠”品”の管理不十分も加わり、ニコライは渋々と歩み寄るという姿勢を見せただけということを知り尽くしていた。
「あの事件は疑念の通り、ヨネヤマ氏が起こしたものではないですよ。彼はむしろ被害者であるといえるでしょう……」
 この探偵は狐目の刑事を好んでいた。なぜならば……。
(利用するのに心が痛まない人間なんて、ざらにいるものではないからな)
 ニコライはこの日、二度目の喜びを噛み締めていた。一度目は朝に出会った、クライス・ベルンハーケンという彼のみが知る同胞との邂逅に。そして2度目はパメラという獲物との狩りに。彼のスリーピングビューティーには見せることの出来ない、暗い喜びに浸っていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 久方ぶりの再開――何ヶ月ぶりだろう?――に逸る胸を押さえて、少女は路肩から道路に向かって手を上げた。その所作に反応して彼女の傍に一台の車が止まる。その車に操縦者はいない。無人のタクシーだった。
 制御技術の発展でGVWでは車の運転に基本的には操縦者を必要としない。個人の所有には安全上の理由から免許の所持を求められるのだが、タクシーのような人を運搬する車は無人である。その車両は手をあげるという行為を前面に据え付けられているカメラで認識してパメラの横で制止した。(ちなみに道路脇で無造作に手をあげると用事がなくとも制止することがあるのはご愛嬌)「乗るのかい?」といわんばかりに綺麗に磨き上げられた黄色いボディーを光らせる車。パメラがサイドドアをタッチすると、扉が開き、タクシーは客を招きいれた。
 パメラが座席に腰を下ろすと、高級車に勝るとも劣らない適度な柔らかさに体が沈む。
「行き先はドコデスカ?」
 タクシーに搭載されたAIは腰が低いのに、卑屈ではないという最適な調整が施された女性の声色で乗客に尋ねる。その質問にパメラは一言簡潔に述べる。
「クーロンシティーへ」
「了解シマシタ」
 合成音が終わる前から車は機敏なレスポンスで揺れを感じさせることなく滑り出した。
 止まっていた景色が緩やかに流れ出す。サイドガラスから見える街並みはネオンが光りだし、夜の装飾を纏おうとしていた。疲れたものを迎え入れ、楽しませる店――対価として金を吐き出させ――が暖簾といわれる布きれを店頭にかかげれば、この街特有の食事文化が華開くというものだ。そういえば今日は休みの前日だった。この街の夜がそんな日に賑わうことを、数年暮らして知っているパメラは、己の高鳴る鼓動に重ねて想いを馳せた。
 光彩の賑やかな通りを抜けると、そこは夜の静謐さが力を取り戻す長いハイウェイへ出る。時折反対車線から交錯するライトに照らされてパメラの顔がくっきりと映った。そこに描き出されるのは恋焦がれる少女の顔だ。早く会いたい。あの人に今すぐ会いたいと急く女性の顔だった。
(あと少し、あと少しでクーロンシティーに着く……もっと速度が出ないのかな……早く早く……)
 多分に初心で未熟な感性は法定速度を律儀に守る無人カーに苛立ちすら覚える
 あの屑みたいな男に未練などなかった。どんな寂しさにも苦しみにも耐え抜いてきたのはあの人がいてくれたから。私のマスターが「期待してるよ」と一言いってくれるだけで、全てが報われた。……会いたい会いたい会いたい会いたいあいたい。
 パメラは幸福に満ちていた。夢想に浸り、とけきっていた。名目上のマスターだった男を手にかけたことなど、彼女にとっては腕に止まった蚊を潰したことよりも印象に残らない出来事だった。パメラはただ瞳を閉じてとろけきっていた。
 そんな幸福な時間を味わっていた時だった――ガクンと車が沈んだと思うと、次の瞬間には激しい揺れが車体を襲った。衝撃で意識が暗闇へと、垂直に落ちていく。
「貴方に恨みはないのだけれど――……」
 声を聞いた。言葉ほどに反省の色を感じない口調が耳に残る。意識の中でスズランが香った。線の細い肩の先で髪が軽やかに舞う。それが彼女の落ち逝く意識の中で感じた全てだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 玄関口で待っていたニコライを待ち受けていた幼い依頼人の片方は、パメラ逃走に関わる事情を聞くと「きっと、あの娘だ!」と声を上げた。
「声をかければよかったかなぁ……クライスがあまりに不味いジュースを持ってくるから悪いんだからね」
「えっ、僕のせいなのかい?」
 クライス・ベルンハーケンはリリスの不条理な物言いに肩を竦める。少女の睨む顔に視線をあわせないようにしてクライスはニコライに向き直った。
「それで……これからどうするんですか」
「なにぶん、行き先の手がかりがありませんからね。お嬢さん、パメラらしきニューロノイドがどこに向かったかわかりませんか?」
 露骨に話を逸らしたクライスをじっと睨んでいたリリスだったが、水を向けられて渋々と視線を外してニコライに答えた。
「うーん……タクシーを呼び止めていたところまでは見たんだけど、どこにいったかまでは……」
「それだ!」
 指を鳴らして声をあげたニコライ・カラマーゾフに何人かの人間が注目する。玄関口に立っている警官も不審気に何事かと振り向いていたが、ニコライは気にしなかった。
「あれ、もしかしてボク、今いいこといったかな」
「実に重要なヒントです。タクシーの制御管理をしている会社に問い合わせれば、どんな客がどこへ向かったかがわかるはず。乗車した場所と時刻がわかっているから判別は容易ですしね……もちろん、警察の名前は使わないと教えてくれないでしょうけれど」
 ニコライの背後で掛け合いを見ていたボブスンは、自分を指差す。
「ここは俺の出番ってことか?」
 無論、といわんばかりに深くニコライは頷いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ボブスンは慇懃に受話器の向こうの相手に礼を述べて、スイッチを切った。
「どこですか?」
 狩人は獲物の行き先をボブスンに尋ねる。刑事は厄介なことになったぞ、と苦々しい顔をしていた。
「神鋼の衛星都市の中でも全ての裏金が集まる札付きの場所だ」
 それだけで探偵は全てを理解した。そんな場所はGVWにおいてただ一つしかない。三大企業に付随する三大裏都市。一つはILBMの廃棄街、もう一つはサイバーメックのゴーストタウン、そして……
「……クーロンシティーですか」
 ――クーロンシティー。クライス・ベルンハーケンが呟いたその場所にパメラは向かったという。
 それを受けてニコライ・カラマーゾフはなるほど、と頷く。
「裏を司る街の中で最も華やかで、富んでいて、残酷な場所ですよ。アノフェレスが根を貼るのにふさわしいですね」
「暢気なことをいってる場合じゃないだろう。あそこじゃ司法の手も届かないぞ」
「わかっています、ボブスン刑事。ご協力ありがとうございました。ここからは私の仕事ですよ」
 下手をすると血を見るはめになるなと、半ば確信しつつ、ニコライ・カラマーゾフは立つ。そこで突然にニコライはリリスのほうに向き直り尋ねた。「お嬢さん。ニューロノイドは殺人の道具という立場を甘んじて受け止めますか?」と。
 その言葉を受けて、リリスはきりとした眼差しで決然と応える。否、断じて否と。
「愚問でしたね、失敬」
 ニコライにはそれだけで充分だった。彼の正義はそこにはない。彼は彼の為に動いている。それでもこの瞬間だけは依頼人と心を共有し、怒りを共有しただけで満足した。
 犯した罪を人間の倫理の下で裁く為にパメラを追う。その決意を確認し、愛用の色あせたコートに袖を通して、ニコライは動き出す。己の正義ではない、依頼人の正義を具現するものとして、三日探偵はパメラを捕らえに動き出す。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……んっ、あれ?」
 脳の中がどっぷりと泥につかっているようにぼやけている。少女は目を擦って腕を伸ばした。――確か何かあったような?いつのまに私は寝ていたんだろう?
 何かが欠けている様な感覚があったが、何が欠けたかはパメラにはわからなかった。パメラはあやふやな感覚を不可思議に思うが、横を向くとすぐに忘れた。
「わぁ……ステキ!」
 流れる景色は映し出す。建物と建物を架ける看板と夜のネオンを。空を埋め尽くすかのように人工の光が支配する、眠らない街がある。
 ――クーロンシティー。
 煌びやかな彩色の街はまるで自分を歓待してくれているかのようにパメラは錯覚した。感動に打ち震えて、パメラは全ての悪が集う街に辿り着く。
 その先に待っているはずの夢のような再開を疑うことなく、ただ目を輝かせて街並みを眺めていた……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

……つづく。


次回
RGタイムズとヨネヤマの危機
その14
「全てを捧げしものへ ①」

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