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RGタイムズ紙 / スポーツの秋?食欲の秋?読書の秋?……それともRGの秋?

そんな秋が来る日は……。 @2004 Alphapoint co., ltd. All Right Reserved.

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雷神家の絆 第20話 高度12「騒がしくも賑やかな非日常の始まり」

雷神家の絆 第20話 高度12「騒がしくも賑やかな非日常の始まり」

 2月12日に雷神がセンティビートを奪取してから24時間が経過し、13日も半分を切り、人工太陽は頂きへ近づきつつあった。13日午前6時24分より、中央政府は接近しつつあるHHの集団に対し、準1級臨戦態勢に移行することを全関連機関に通達。これを持って、気象庁に属する天候管理局は当日午後2時より、第三級臨戦態勢に落ちるまで人工太陽灯を落陽させてはいけないことになっている。
 1日を陽が昇り、灯が沈むまでと定義するならば、長い長い1日が始まろうとしていた。それも招かれざる客によって、非常識なまでに賑やかで騒がしい1日が。


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雷神家の絆 第20話 高度12「騒がしくも賑やかな非日常の始まり」


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 ILBM本社ことILBM中央研究所から2キロも離れていない場所に、集合場所とされるイルグランスホテルは居立している。灯台元暗しとも取れるが、安易な発想をもってして雷神が追手の裏を欠こうとしたかは不分明であり、ただ単純に交通の利便を考えて選んだのではないかとマイカは考えている。
 雷神家のマイカは集合場所と指定されたホテルにクライス・ベルンハーケンと共に1泊して昼を迎えていた。マイカの目の先にある携帯モジュールには文面が映し出されている。一通は昨晩届いたエステルのものであり、もう一通は先ほど届いたばかりのヤヨイのものだった。
 エステルはウラ・イートハーと共に戦いの準備を進める為に集合場所へ辿りつけない旨を通知しており、ヤヨイは本日の午後8時にILBM領到着予定であるとしていたが、HHの出現状況次第ではトライアングルウェイが止まる可能性――前回の襲撃の折にHHが第2層地下を使っており、その為、準1級体制移行と共に運行中止する恐れがあった――があり、辿りつけない可能性が大であるとしている。
 こうして、ただ待っているだけでは再会ならずの状況に当り、マイカは黙々と昼食を取っている。
小さい長女はツナとタマゴのサンドイッチを味わうことなく咀嚼し、考えていた。
――さて、ボクとしてはどうしたらいいのかな。
 父を探そうにも、現段階では手がかりがない。追手を逆追跡すれば辿りつけるかもしれないが、暗闘のプロである諜報員相手には危険すぎる。姉妹が揃えばなんとかなるだろうと楽観視していたものの、それはヤヨイの並外れた情報収集力とエステルの分析力を主としていて、実はマイカ自身はこういう展開で役に立たない。あったとしても精々が精神的支柱としての役割だろう。それらをこの長女は自覚していたので空しく途方に暮れざるをえなかった。

「……カ、マイカ、ちょっと聞いてるかい?」
「えっ?」

 ぼんやりとしていたマイカに対し、呼びかけるクライスの声は立体映像を指していた。どこの局もHH関連のニュースしか流れていない。緩いBGM程度の意識しかなく聞き流していたのだが、意識するとレポーターの周りには喧騒が広がりつつあった。

――特報です。現在、GVW北部方面軍イージスⅢ要塞にて多数のHHを観測したとの情報が入りました。対し、イージスⅢ要塞から多数のトレーサーが南方のオルゴンストン地区に向けて進発しております。これは要塞を放棄すると見ていいのでしょうか。……スタジオの方へ戻します――

 ついに動き出した。マイカはこれによって世界――あくまでも雷神家の――がどう動くかを自分なりに予測を立ててみる。拾える情報を断片的に整理してみれば、父はILBMの新型兵器を奪取し、逃走中。その兵器はトレーサーよりもでかいが、輸送フリゲート艦程度のサイズらしい。さすがにそれだけの物が動けば目立つし、現在は潜伏していると見ていいだろう、と筋道を立ててマイカは考えた。偶然か――あの狡猾な父のことだ。多分、運頼みではないだろう。HH襲来の騒動に紛れ込んで動き出す気だろう。これらの答えをマイカは半時間ほど熟考して導き出した。
 つまり、動き出したところを追えばいい。ハウンドドッグ部隊のバウアーと同様に考えた少女であったが、彼らにあって、彼女にはないものがあった。

――脚があればいいのに。できればトレーサーといいたいところなんだけど……。

 動き出せず、状況の推移を見守ることしかできない自分を歯痒く感じるマイカ。せっかちなまでに逸る気持ちに戸惑いながらマイカは待つ。
 そんなマイカをクライスはじっと見つめ、何事かを深く考えこむかのように腕組みをして、ニュースを見つめていた。


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 舞台は変わる。
 イージスⅢ要塞は5年前の通称「悲劇の日」にてグランドールに易々と突破されるという不名誉を被った。それからイージスⅢは防衛上における修復が進んでおらず、北部方面軍の駐在基地としてのみ存在している。
 北部方面軍司令官ゴルナッディ中将は正規軍上層部に蔓延る、官僚型で軍人の割に政治的な詭弁を好む一人だった。細身で眉間に残る皺は彼の神経質な部分を示していた。ゴルナッディ中将はイージスⅢ要塞防衛能力に信を置いていない者の一人でもある。

 御年52になる彼はそろそろ昇進して前線から退きたいと考えていた。GVW正規軍の軍制度では現場指揮官の最高官位は中将であり、大将となれば大規模な作戦以外では出番はなく、戦略というよりも軍政に携わるポジションとされていた。
 官僚主義的な色合いが強いゴルナッディがここらで一つ大戦果をあげて、出世を目論んだとしても不思議ではない。

「イージスⅢ要塞を3時間以内に放棄してオルゴンストン地区まで全軍を転進。オルゴンストン地区にて敵対集団に対し、迎撃に出る」

 ゴルナッディがあげた作戦案に対し、参謀は二つの意味で唖然とした。

「……中央の指示では要塞にて援軍到来まで防衛待機せよとのことです。それにオルゴンストンで迎え撃てば大衆の生活圏がまた壊滅します。5年前からやっと復興したというのに……」

 参謀は前者は進言し、後者は言葉にこそしなかったものの、立場が許すのなら訴えたかった。中将はにべもなく手を振り払い、不快そうに眉を潜める。

「緊急時における現場での指揮権は私にある。更に戦略案には逆らっていない以上、問題はあるまい。ここで守り朽ち果てるか、オルゴンストンで守り生き残るか、どちらを選ぶか明白だろう……さっさと参謀側はオルゴンストンにおける防衛案を打ち出してくれたまえ」

 かくして、北部方面軍は要塞を放棄し、オルゴンストン地区による防衛を決定。ゴルナッディの思惑は大半の軍事素人にも読めるほどに浅はかであった。
 この官僚軍人は5年前、ウラ・イートハーが1個大隊の戦力で成功させた議事堂街防衛戦を真似ようとしただけなのである。GVW名物ともいえる高層ビル郡を林と見立てたヒットアンドアウェイはトレーサーという兵器ならではの戦法であり、中将はこのやり方で完全に防衛を成功させ、包囲殲滅を成し遂げる必勝の策を取ったつもりだった。

「ふん、デカブツが来ようと軍規模ならば持ちこたえて見せよう。来るなら来い!!化け物どもめ」

 大きな吼え声が悲鳴に成り代わろうとは、この時、誰も思いもよらなかった。参謀達でさえ、都市部を犠牲にするなら確実に作戦を成功させようと考えていたのだから……。


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 太陽灯が頂点に達した午後2時。紅き巨人はイージスⅢ要塞へ姿を見せる。監視カメラが映し出した映像に誰もが息を呑み、怨嗟の声があがる。GVWの人々にとって、災厄が姿を成したものであるグランドールは悠々と、乗り手と同じように仰々しい体格の割に軽やかに散歩しているように見えた。

「誰もいないじゃない。面白くない」

 レティシアが唇を尖らせて文句を言う。まるで戦時とは思えぬ緊張感の無さであった。グランドールの周りにうろつく大量のHH達も轟と唸っているかのように不満げだった。
 
「さて、このまま反抗しなければ目的果たして素直に帰るんだけど、そんなわけないわね。何をたくらんでるのやら……」

 とりあえず前に進むしかない。そう考えたレティシアは前進を命じようとした。
 通信機器から人には聞こえぬ波長域で信号が流れる。それは彼女が放った斥候からの報告であり、北部方面軍の陣容を聞いている内に、レティシアは笑いがこみあげてくるのを抑え切れなかった。

「ハハッ、アハハハハハッッ。なにこれ、どこの馬鹿が考えたのよコレ。思ってたより、今回の仕事は楽に片付きそうじゃない?」

 馬鹿呼ばわりされた北部方面軍司令部が必勝の策と信じていた戦術は、レティシアから見れば愚の骨頂であり、嘲笑の種に過ぎなかった。

「あーあ。ゴリ押しでも勝てると思ってたけど、ここまでふざけられると、こっちとしては真面目にやらないといけない気がしてきたなー」

 方針さえ明確に定めてしまえば、このニューロノイドは誰よりも迅速だった。


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 1514時、オルゴンストン地区にて砲火が交わされた。レティシア率いるHH軍団は総勢2万の内、十分の一を投入。伝統的といっても差し支えないほどに、HH側は全力を持って攻勢をかける――レティシアの言うゴリ押し――というのに、珍しく戦力を分けた。

「何を考えてるのかしらんが、思う壺だな!!」

 ゴルナッディは勝ったと心の中で快哉をあげた。同時にレティシアも勝ったとさほどの感慨もなく思っていた。この二人が思った勝ちの意味には相当に温度差がある。レティシアはこの勝利に大した比重などを置いていない。

 正規軍トレーサー部隊は当初の作戦通り、高層ビルを盾に、隠れ蓑にしてHHを迎撃していく”つもり”だった。この任にあたるトレーサー3個大隊は数にすれば355機。単純な数の比では不利だったが、これまた伝統的にHHとの戦で、人類側が戦力で唯一共通の敵を上回ったことは一度もない。しかし、人類にはトレーサーがあり、この新兵器は常に数倍の敵を倒してきた。その信仰は軍事に携わるものにとって厚く、揺るぎの無いものであった。揺るぎ無きものであるはずだった。

「おい、なんだ、こいつら」

 北部方面軍が眼前にしたのは、二千のHH。紅く、蒼く、白く、群れているHHの集団。

「識別呼称グリムロック、スケアクロウ……更に新型が……」

 HHの集団は二脚であり、それは信仰の対象であるトレーサーと同様の姿形をしていた。確かに彼らは、このタイプのHHを先ほどの食料プラント襲撃戦において確認はしている。しかし、その時は精々百体前後であり、数千の規模で投入できるとは考えていない。
 軽い混乱に陥りながらも、信仰を恃みにトレーサー部隊は戦闘へ突入していた。司令部は愚直なまでに当初の予定通りに事を進めようとしている。残念なことに、ゴルナッディ中将には臨機応変に対応するという才覚は期待できない。

 ――第2トレーサー大隊所属、ロイナス軍曹が操縦していたグリフォンⅡのフェビウスR2マシンガンは紅い二脚HHの外郭にあっさり跳ね返された。撃って逃げた先には3体のHHが待ち構えていた。HHの――人類側の兵器から鹵獲した――タイラントAGキャノンが火を噴き、彼は成す術もなく散った。
 大半のトレーサーは同様の運命を辿っていた。

 このHH達はバグより遥かに堅く、迅く、火力の面でも人類の持つ兵器と同等に並んでいる。そうとなれば当たり前の話だが、数が多いほうが有利になる。
 ウラ・イートハーの作戦もバグタイプより圧倒的に機動力で上回っていることを前提としており、同等性能の二脚トレーサー型を相手にしては意味がない。

 ゴルナッディは呆然とするしかなかった。次に彼が取った行動は、逃げることだった。トレーサーという宗教に見捨てられた信仰者は錯乱し、出世のことなど忘れ、名誉も責任も置き去りにしてしまった。
 退却命令すら出されず、1時間もせぬうちにオルゴンストン地区防衛部隊は壊滅に至る。


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 レティシアはGVWの信仰を揺るがすことをやっているとは露ほど考えておらず、どこまでも淡々としていた。

「狩りの時間よ。炙り出して、後は後衛のバグタイプで歩兵ごと食べ尽くせばおしまい。次はど、れ、に、し、よ、う、か、なっと」

 モニターには多数の方面からオルゴンストン地区へ向けて集結しつつある軍勢を確認できた。レティシアは最も近い軍団を細い指先で示す。示された先には東から迫りつつあるCM、正規軍混合部隊があった。

「次っ、さっさと片付けにいこっか」

 オルゴンストンを制圧した以上、ここで留まって包囲される義理は彼女にない。どこまでも身軽な悪魔は己の身体を操るが如く、次の目標へ向けて東進した。

――13日午後6時。CM、東部方面正規軍混合部隊後退。同日午後7時、中央正規軍第4師団後退。

 無慈悲なまでに紅き巨神は各地で信仰を叩きのめし、絶望を煽り立てている。レティシアはけして、一秒たりとも同じ場所に留まろうとはしなかった。
 刻一刻と変化する状況にに、正規軍参謀本部は引いて態勢を整えるべきか、突き進むべきかといった単純な二択ですら判断がつけられない。

 常に選択権はレティシアの手中にあり、現在のGVWは彼女一人に握られていた。


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 レティシアがGVW北部で戦火を拡大していた頃。それによって引き起こされる騒動を待っていた男がいた。必要以上の騒動だったが、そう都合よく運ぶものでもない。達観というより、諦観で、雷神――ジャン・タークはセンティビートに火を入れた。
 ILBM南西に位置する辺境区は荒野の地である。砂埃を巻き上げながら、百足がくねりながら前進する光景は不気味だった。

――北へ。北にレティシアはいる。

 荒ぶり、高まる感情を、ただ静謐に磨き上げた精神で押さえ、雷神は往く。
 雷神のでかい身体では伸びひとつするのもままならない操縦席では、暇をしていた時に見つけたダース単位の煙草――龍之介が隠していた――が4席の内、火気管制席に鎮座している。エンジンの微かな熱気だけが肌を刺し、この兵器が生物になった事を教えてくれる。
 未開発、又は辺境地区の人外の地の間を縫うようにして、センティビートを走らせていく。彼はグランドールと対峙する時まで、この機体の火力を出来るだけ温存していくつもりだった。
 従来、プロトタイプ・センティビートは4人の操縦者を必要とする――主操縦者、複操縦者、火気管制、情報処理、更に欲を言えば搭載トレーサーのガンナーが一人いて初めて充分な操縦が可能となるように設計されていた。だが、その機体を雷神は実質一人で操舵せざるを得ない。為に機体が持つポテンシャルを発揮することは期待できなかったし、補助をAIに頼るにしても戦闘行為は危険だった。
 マイカが姉妹を恃みにしていたように、雷神も娘達を残りの操縦席に乗せてサポートさせれば存分に百足の火力を発揮できただろう。そのことはジャン・ターク自身も理解していた。――あえてその選択肢を除外したことに、ジャンは己を嘲笑いたくなるほどに甘いと感じながら、後悔は全くしていない。

「まだ別れてから3日しかたってないってのに、あいつらが恋しいんだよなぁ。ったく」

 雷神は傍の煙草に手を伸ばそうとする。

――おとうさん!コクピットルームで煙草吸うと匂いが取れなくなるからダメだよ!!

 娘の叱る声が頭に思い浮かび、手が止まる。

――ちょっとくらいいいじゃないか、なっ?
――ダメー。あんまりしつこいと、ヤヨイちゃんにいいつけちゃうからね。
――それだけは……勘弁してくれーーーーっっ!!

 雷神は苦笑しながら、伸ばした手を引っ込めた。レティシアが夢見ていた家族、リオリーが導いてくれた家庭、三人の娘と共に築きあけた雷神家。どれもこれもが、いとおしいのに、守ることができなかった。
 力が欲しい。持たぬ物を誰もが願う。不条理の嵐を越えていける力があれば、あの時、こうできた。この時、ああできたはずだ。悔恨はどこまでも続いていく。ようやく手に入れたものは常に水の如く、零れていった。ジャン・タークは常に持たざる者であった。
 そんな彼の覚悟はどこまでも傲慢で、無謀で、強欲だった。


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 しばらく巡航モードで進んでいたセンティビートだったが、けたたましい警告音が乗り手の目を覚ます。雷神はさほど慌てるでもなく、場違いな程にのんびりと呟いた。

「わかっちゃいたけど、早いな。この非常事態にトレーサーを差し向けてくるとは、厄介なもんだ」

 南の方向からトレーサーが1機。追随して2機。先頭を疾走するトレーサーだけ突出している。

「アーケロン……ILBMの追手か。ということは、俺は計画推進派に切り捨てられたってわけだ……龍之介、ブロッケンは出せるのか?」

 この言動の意味は、ブロッケンを発進出来るのかという意味ではなく、切り捨てられた自分に対して第7機構は協力するのかどうかということになる。

「答えはノーだな。つっても、こっちもやばそうだったら私的判断で出させてもらう」
「わかった。邪魔さえしなければ問題はない」

 確認を済まし、思考回路を意識せずして戦闘状態に切り替える。この時、情の霧が晴れて、どこまでも思考が鮮明になっていくのを感じながら、雷神は計器類に眼を走らせた。

 

 追手も同様に、思考回路をどこまでもシンプルに絞って、獲物へ牙を向けていた。

 疾走する緋色の機体を駆るのは、ハウンドドッグ部隊隊長バウアーに他ならない。彼が操縦するアーケロンは多脚複座型第一世代オルクスのホバー機構を特化させたものであり、現行トレーサーにおいて並ぶもの無き機動力を持っている。
 空舞うというより、宙を這うようにセンティビートへ接近するアーケロン。
 互いを視認できる距離まで近づいたところで――雷神の眼にはアーケロンの羽部分に部隊章である犬が映った。急上昇したところで、迎撃しようと百足の背からミサイルによる煙の尾が多数吹き出てアーケロンに食らいつこうとしていた。

「早い、もう態勢を整えているとはな」

 バウアーは機内で関心するように呟く。自分自身に数本のミサイルが迫りつつあるというのに、全く平静であった。この男も雷神と同様、胆が座っており、少なくとも表面上に動揺を顕にするような無様な真似はしない。

「マイカ、ジャミング準備。最大出力でいけ」
「オッケー、マイマスター!!」

 バウアーのマイカは元気よく返事した後に命令を実行した。
 計器類が時計回り半時計周りと不規則に触れた。肩部の武装を外し、電子ジャマー発生装置に切り替えた電子兵装型アーケロンは強力な妨害電波を周囲に流す。あまりにジャマーが強かった為に発生源である機体そのものも制御が狂い、多少ふらついたほどである。
 6本のミサイルは始めにアーケロンを追って上昇していたが、ジャミングを受けると盲目になり、命令を忘れたかのように各々適当な方向に飛び去り爆発した。
 バウアーは回避したことを見届けると、すかさず指先を少しばかり動かした。

 バウアーはアーケロンの主武装部分に取り付けられた前時代的な無誘導爆弾を目的に投下した。500ポンド級が2発、この電子兵装型唯一の火力をセンティビートに放る。
 轟音が広がると同時に、大地が鳴動する。機体の中にいても激しい衝撃波が雷神の身体を揺らしていく。
 見事命中した爆弾は、百足に相当な衝撃を与えていた。トレーサーによる空爆なんて前代未聞である。これだけでも雷神側は不意をつかれたといってもよかった。

「奴の対空砲にやられないうちに俺たちはさっさと離脱するとしようか」
「あれ、マスター。モリスンさんとイトウさんの援護はしなくていいの?」
「思ったよりダメージがないみたいだから止めた。こいつじゃ援護どころか足手まといにしかならんよ」
「はーい。では全速力で戦域を離脱します。マイマスター」

 バウアーは奇襲を成功させると、さっさと逃げ出した。爆弾を手放したアーケロンは身軽になり、先ほどよりも加速がスムーズにいく。

 雷神がシステムを回復させた時には、すでに遥か彼方にアーケロンは飛び去っていた。そして、即座にブロッケン2機が近距離に迫りつつあることを確認する。あまりに鮮やかな戦い方に、雷神は悔しげに舌打ちするしかない。

 一息吐く間もなく、かつては自分が乗りこなしていた蒼き機体はミサイルの意味が無いほどに接近戦を挑もうとしている。――くそ、こんなの多脚の戦い方じゃないだろ!!


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 湯に当たり茹った蛸のようなセンティビートは煙を噴き上げていた。まだ試作機の性か、どうにも排熱効率が悪いらしい。
 濛々と辺り一帯に立ち込める熱気は戦闘からさほど時間がたっていないことを教えてくれる。
 精々、時間にして5分程度の戦いでブロッケン2機は撤退した。これもまた、お見事としか言いようの無い逃げっぷりであった。

 雷神はヒートダウンさせる為に機体を冷却させてる間、外に出て煙草を燻らせている。煙草の煙と機体から発せられる煙が交じり合い、よく咳き込まないものだと龍之介は関心していた。

 間を置かずしてジャンは先ほどの戦いから、敵が誰なのか、その目的は何なのか予測していた。

 ――棘鎖を付けた闘犬の部隊章、あれはILBMのハウンドドッグに違いない。

 ハウンドドッグ、表向きは辺境警備研究部隊所属小隊の一つ。しかし実態はILBMによる唯一のトレーサー装備内規粛清部隊、通称番犬。飄々としたクセモノの隊長が率いると噂されている。
 雷神はその隊長を知っていた。過去に多国籍部隊で共に戦ったこともある、バウアー・ドラッケン。多国籍部隊の隊長級になら誰にでも言えることだが、出来れば相手にしたくないタイプだった。
 灰を一つ落とし、煙草をまた口に咥えた。いつもの倹約癖で油断すれば手を火傷しそうな長さまで雷神は煙草を堪能する。
 有能で実践に長けた相手なら話はわかりやすい。今回のは荒っぽい威力偵察に過ぎないのだろう。敵の戦力を探り、次にトドメを刺す際に情報を蓄積していく。あの調子なら、北上していく際に2,3回は突くように襲ってくるだろう――それまでにこちらが生き残れれば、だが。
 考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

――隠密行動や奇襲をするにはこいつはでかすぎるんだ。

 自然、火力重視の大艦巨砲戦法しか取れず、喧嘩を売られれば勝つか敵が逃げるまで相手と殴りあわなければならない百足。待機奇襲やヒットアンドアウェイを得意とする雷神の性には全く持って合っていない機体なのである。グランドールに立ち向かうにはこの機体しかなかったとはいえ、ジャンは愚痴の一つでも零したくなる心境だった。

 煙草の吸殻をこんな無人の辺境の地でもポイ捨てすることなく、胸ポケットに納めていた携帯灰皿に落として――娘達に口酸っぱくして言われた習慣は根強くこの男に残っている。雷神は北上を再開した。
 


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 陽が昇ってからは慌しく過ぎ去った1日は終わらない。本来なら人々が眠気に抱かれながら床に就く時刻だったが、準1級から1級臨戦態勢に移行したGVWにおいて陽は落ちない。

 GVWの軍事に携わるものなら、どんな宗教の神々でさえ適わない、鉄機への信仰は破られた。

 悪魔――レティシアは無慈悲に彼らの無知で無垢な信仰を破り捨て、GVWを蹂躙している。HHの襲来からたったの二日でGVW全体の26%はHH側の手に落ちていた。サイバーメックはあわや本社から僅か北30キロの地点に防衛線を引いているような有様である。
 神鋼重工も北西部分――エレノア湖を含む――を放棄していたし、ILBMは南部からの襲来に手が一杯だった。

 軍事無線に耳を傾ければ、やれ第302砲兵部隊撤退だの、第1022機甲部隊壊滅だのといった悲鳴しか聞こえない。
 あれほどにガンナーバトルでトレーサー対トレーサーの見世物を楽しんでいたGVWは、全く持って2脚型HHに歯が立たないといった状況だった。
 暦上の日が2月14日になった頃に人類は完全に守勢に立たされていた。5年前の悲劇の日においてHHを包囲殲滅しようとした人類は、逆に殺戮の危機に慄いていた。

 HHどもが築いた包囲網を突破する為に、各企業軍は部隊を再編していた。
 栄光ある神鋼軍第2軍――近衛司令官はウラ・イートハーだった。
 「英雄は起った」士気高揚の意味を込めた神鋼重工の宣伝に人々は沸いた。絶望の意味を理解する時間もないほどの絶望を夢幻のように感じていた彼らは無邪気に英雄の帰還を喜んだのである。
 
 当の英雄は嘆息するしかなかった。

「正直、状況は5年前より酷いわね」

 傍らに雷神家のエステルを従えたウラは考える――手元の戦力、状況、敵の動き、どれをとっても最悪だ。

「エステル、あなたはこの状況をどう思うかしら?」

 突如問いかけられたエステルは、傍観者に徹していた為に客観的な事実を淡々と話す。

「戦力差と彼我の位置を考えれば、圧倒的に人類側の不利です……それでも彼らが包囲の為に戦力を伸ばしていることから、どこか一点に圧力をかけられれば、あるいは……」
「そうね、問題はそのきっかけになる、圧倒的な火力どころか、圧死しないように踏ん張る程度の戦力しか持ち合わせていないってこと」

 塞がれた壁を抉じ開ける力が欲しい。
 無いものねだりとわかっていても、ウラ・イートハーは願わずにいられない。

――手元のカードだけじゃ足りない。イレギュラーがなければ……GVWは終わる。

 自分の思考に気づいた時、ウラは愚かにも奇跡を願ってしまったことに後悔していた
 そんな心情とは裏腹に、エステルの目から見たウラ・イートハーは奇跡すら起こしかねない自信による確信を備えた英雄を表面上、見事なまでに演じ続けていた。

 

――2月14日午前6時、天候管理システムはHHの手によってダウンし、人工太陽は沈む。予備電源による僅かな灯りは薄暗く、GVWは深淵の闇に包まれようとしていた。

……to be continued


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