そんなこんなで始まるRGタイムズを取り囲む事件。
あまりプロットをつくっていないので行き当たりばったりになりそう。
<登場人物>
■クライス・ベルンハーケン
14歳と若輩ながら、トレーサー設計技師として有数の才能を持ち合わせる少年。
それに加え、リリスを妄信していることを除けば普通の人間である……たぶん。
■リリス・ターク
ニューロノイド。ガンナーとして長距離狙撃をやらせれば右に出るものはいないほどの才能を持つが、自由に使えるトレーサーを現在持っていない。
本来は面倒見が良く、純粋で奔放な少女だが、現在はとある事件のせいで擦れている。某一家の長女。
■レティシア
すごい人もとい、ニューロノイド。
現在、RGタイムズに押しかけて、無理矢理リリスにスパルタ訓練させている。
豪快かつ軽い。
■ヨネヤマ・マサオ(性・名)
旅行にいったついでに中の人によって厄介なことに巻き込まれてしまった可哀想な人。
噴出した血の感触は、生暖かく、どろりとしていた。
――もはや後戻りはできない。
私は手元のナイフの柄をぎゅっと握り締めて、現実を許容せざるを得ないと自覚していた。そう、足元に広がるまだ温かい死体のことを認めなければならない。
全てはあの男――ヨネヤマ・マサオとかいう記者モドキが悪いのだ。アイツが余計なことを嗅ぎまわらなければ、こんなことをする必要はなかったのに!
理不尽な怒りに頭を掻き毟りたくなる――だが、それもこれを片付けてからだ。
――そう、私のマスター”だった”男の亡骸を……。
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ILBMが主張する勢力圏と神鋼が主張する勢力圏の境目にある、ILBM寄りに位置する場所にRGタイムズはある。正確に言えば、RGタイムズという個人の好奇心を満たすために作られた地方紙を作っている人物の住処がある。
国道沿いにある寂れたアパート、3階の一室。ヨネヤマ・マサオ記者が住む家に僕、クライス・ベルンハーケンは彼女と転がり込んでいる。
相方である少女――名をリリス・タークと言う――は朝方に出かけ、日が沈む頃に帰ってくると同時に、この部屋唯一のベッドを占拠して眠りこけていた。毎日、擦り傷打ち身が増えているようだが、この件に関して口をはさむことは禁じられていた。
背後にある建てつけの悪い横開きのドアが悲鳴を漏らしながらスライドすると、湯気がふわりと室内に雪崩れ込み、同時に熱の籠った石鹸の香りが鼻腔を突く。
「クライス~、ちゃんとキルヌール冷蔵庫にいれてくれた?」
シャワールームから出てきた女性は風呂上りの酒の心配をまず第一にする。ちなみにキルヌールというのはどこにでも売っているような安いカクテルの銘柄だ。
リリスと共に出かけていた彼女は、帰ると、背中におぶっていた気絶しているリリスを軽々とベッドに放り込み、空いた手でキルヌールを僕に放り投げてシャワールームに直行した。1週間ほど前から修行じみたことを始めてから、毎日がこんな調子だった。
「ええ……ってちょっとレティシアさん、服くらい着てくださいよ!!」
声に対して後ろを振り向き、視界に飛び込んできたものを見――慌てて儀礼的に視線を逸らす。
ショーツ一丁にバスタオルを首にひっさげているだけのあられもない姿。すらりとした肢体に濡れた髪は扇情的で……って僕は何を考えているんだ!
「ん~、だって熱いんだもん~。……んぐっんぐっ、ぷはー。やっぱり風呂上りの一杯はたまらないわねー」
窓際にある手近な椅子を引き寄せて、酒瓶片手にテレビのリモコンを取る流れはレティシアさんならでは、無駄のない動きだった。リリスが疲労で眠りこけているような訓練を、施している側であるスパルタ教官は全く疲れていないらしい。
まるで僕のことなど気にしていないようにマイペースなレティシアさんは適当につけたチャンネルをじいっと見入っている。その間、ずっと視線を彼女から外していなければならなかった。
「……ねえ、クライス。げふっ、コレって……」
最後の擬音みたいなのはキルヌールを一本空けて、レティシアさんがゲップをしたものである。僕はふてくされ気味に「なんですか」と答える。
「このニュースで言ってる事件の容疑者って、へっぽこ記者のことなんじゃない?」
レティシアさんは重大そうなことをあっけらかんと言ってのけた。なおかつ、まるでこの部屋の主であるかのように、踏ん反り返って空ビンをテレビに向けるという動作は余人には到底真似できまい。
テレビには夕方のニュース番組の顔として人気の女キャスターが、手元の紙片に目を落として読み上げていた。右下のほうのテロップには――昨夜未明、オーサカシティーにて刺殺死体――とある。
「……この事件で現行犯逮捕された容疑者は、ニューベガスに在住しているヨネヤマ・マサオ……」
へ?今、鏡を見たなら、僕は相当間抜けな顔をしていたことだろう。それほどに青天の霹靂ともいえる出来事に、口をぽかんとあけることしかできなかったのだから。
そんな僕を尻目に、レティシアさんは次に始まったスポーツニュースの速報に歓声をあげていたのだった。