RGタイムズとヨネヤマの危機
その4
三日探偵①
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ヨネヤマさんが逮捕され、ボクがそのことを知ったのは事件から2日後のことだった。テレビでよくある殺人事件のひとつとして、記憶に留めていなかった事件の容疑者がまさかヨネヤマさんだなんて知ったら驚くに決まっている。
「ふ~ん、でもあのへっぽこが人を殺すなんて出来るわけがないじゃない」
テレビの報道を見て、酒臭い息で吐き捨てる。
その通り。けしてレティシアさんが言うような、人を殺す度胸があるかどうかという理由ではないが。自分の邪魔になるからといって目の前の障害物を容赦なく排斥するような真似もしないし、一時の激情に心奪われるような人間ではないことを知っている。善と悪で論じるのは単純すぎるとしてもあえて言おう。あの人の根本的なところは善である。いい意味でも悪い意味でも、性善説に乗っ取って味付けされたような人だけれど。
ニュースはあったことを淡々と告げ、次の内容に移り変わっていた。レティシアさんは変わらず酒を飲んでいる。この人は今のところ、リリス以外の存在にあまり関心を持っていない。超越したニューロノイドである彼女は、人の世界を見放しているようなところがあった。ボクでさえ、小間使いとして用いることのできる人間だという興味しかないのだろう。
……とりあえず、思考を目の前に突きつけられた問題に戻そう。
ヨネヤマ・マサオは本当に殺人という罪を犯したのか?ここは犯していないという前提で――信頼というあやふやなモノで進めよう。
しかし、現実に彼は今、警察に取り調べを受けている。これは非常に不味い問題だ。このまま起訴されれば、確実に彼の周りのことについて綿密な捜査の手が伸びつつある。何しろボクとリリスは表の世界でも、裏の世界でも過去に追われる身である。嗅ぎまわられては困ることは山ほどあるといっていい。かといってここを逃げ出せば、未成年二人が生きていくのに最適な場所は早々見当たらない。
起訴される前に、無実を証明して釈放されてくれなければ単純に困る。……被害者には悪いけれど、ヨネヤマさんには仮にクロでもシロになってもらおう。
「……クライス」
「あれ。いつのまに起きてたの?」
いつのまにか寝ぼけ眼を擦りながら、ボクのシャツの裾を摘んでいるリリスがいた。思考の海に沈んでいて気付かなかったらしい。こちらもレティシアさん同様、パジャマの上しか来ていない、だらしない格好をしている。おそらく着替えている途中で力尽きたのだろう。肩で切りそろえたぼさぼさの髪が、いかにも寝起きらしかった。
ぼんやりしている彼女は、まだ意識をあちらの世界といったりきたりしているような面持ちで、一言。
「……ごはん」
――こう見えても、ボクは忙しい。考え事はフライパンを振りながらするとしよう。
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